2006-01-01から1年間の記事一覧

拓海広志「『日本海大海戦』に寄せて」

子供の頃に映画『日本海大海戦』を観て以来、東郷平八郎と言えば三船敏郎さん、乃木希典と言えば笠智衆さんの顔が浮かぶようになってしまったのは大問題です(笑)。 しかし換言するとそのくらい印象深い映画だったということで、僕は日本の戦争映画の中では…

拓海広志「『カルトか宗教か』に寄せて」

「健康」「癒し」「自己発見」「自己開発」といったものを求める、一見何の問題もなさそうな社会潮流の中にカルトが潜むことがあります。 日本社会がオウム真理教を生み出したことや、その活動が長い間放置されていた背景に、こうした「健康カルト」の広い範…

拓海広志「『メッセンジャー』に寄せて」

『メッセンジャー』は東京のオフィス街で自転車便(宅配便サービス)に青春を賭ける若者たちの物語。こういう単純だけど痛快なスポーツ系青春ストーリーが、僕はやっぱり大好きなんですね。 MTBに乗って街を突っ走る飯島直子さんが断然格好いいし、おとぼ…

拓海広志「『Brasileiro』に寄せて」

『Brasileiro』は、「セルメン=ボサノヴァ」だと思い込んでいた人にはちょっと衝撃的だったかも知れないサンバの名作アルバムです。 初っ端から「Fanfarra (Cabua-Le-Le)」「Magalenha」「Indiado」と続く痛快なリズムの渦に巻き込まれていき、気がつくと身…

拓海広志「『ブルー・ハワイ』に寄せて」 

エルヴィス・プレスリーの映画はどれもストーリー的には超単純で、要は彼が歌って踊っていることだけが重要なのですが、逆に言うとそれだけで後世に残る作品というのは凄いことでしょう。 『ブルー・ハワイ』はその代表とも言えるもので、最初から最後までエ…

拓海広志「『ガイア−母なる地球』に寄せて」

『ガイア−母なる地球』はデイヴィッド・ブリン氏の小説ですが、同氏のロマン主義的自然保護イデオロギーに対する批判には僕も共鳴できる点があります。 ブリン氏の思想の根底にあるのは、もともと人間という生物は自然環境に対して何らかの影響を与えること…

拓海広志「『エンデの遺言』に寄せて」

『エンデの遺言』は、日本各地で盛り上がってきた地域通貨ブームにポシティブな影響を与えた本です。 本書を読みながら僕が思ったことは、地域もまた多様性を前提として成り立っている以上、地域通貨を成り立たせる要件の一つである「価値観の共有化」をどの…

拓海広志「『美しい星』に寄せて」

文化概念としての天皇を重視していた三島由紀夫氏は、たとえそれが幻想であっても、天皇を伝統的に確立された文化として中心に据えておかねば、日本というアイデンティティが成り立たなくなるという危機感を抱いていた人でしょう。 『美しい星』は三島氏にし…

拓海広志「『光の島』に寄せて」

過疎化の進行によって子供の数が激減した南の島・唄美島が漫画『光の島』の舞台です。 唄美島に住む老人は、島の小学校を維持するための員数合わせに、都会で暮らす息子夫婦の子供・光を島に呼び寄せます。 光は唄美島の自然や暮らしに深く魅せられる一方、…

拓海広志「『All by Myself』に寄せて」

「永遠の若大将」こと加山雄三(弾厚作)さんが、一昨年68歳にしてまた楽しいアルバム『All by Myself』を作ってしまいました。 もともと楽器は何でもこなす加山さんですが、今回はエレキギター、エレキベース、アコスティックギター、ウクレレ、スチール…

拓海広志「『弟』に寄せて」

螺旋状に重なり合う人生を、強い絆を持って共に歩んできた石原慎太郎さんと裕次郎さん。その歩みを辿りながら、鮮やかに蘇ってくる「昭和」という時代。『弟』は、僕が読んだことのある慎太郎さんの小説の中では一番面白かったです。 特に「少年期」「海へ」…

拓海広志「『あざらし戦争』に寄せて」

動物を支配する「人間」、自然の力をも支配する「文明」というものを信奉してきた近代西欧文明が、その行き過ぎによる弊害に気付いた時に「エコロジー」という思想が生まれたのだとすれば、「自然保護」という発想もまたこの二項対立概念を前提にしなければ…

拓海広志「『意識と脳』に寄せて」

「生命の起源と人類文化の将来を考えるときに、太陽系の歴史が問題になる」。『意識と脳−精神と物質の科学哲学』という著書でそう語る品川嘉也氏は、人間界を含む自然界で起こる出来事の間には相互に何らかの関係があり、その場合の自然界というのは少なくと…

拓海広志「『初恋のアルバム』に寄せて」 

銭湯で働く守銭奴のような母親と、優しいだけで世の中を渡っていく力のない郵便局員の父親に失望していた娘が、両親の出逢いの地・済州島で二人の初恋時代にタイムスリップします。 漁村の美しい風景をバックに、娘役と若き日の母役を一人二役で演じ切ったチ…

拓海広志「『狂気の起源をもとめて』に寄せて」 

精神科医の野田正彰氏はパプア・ニューギニアで増えている分裂病患者の治療にあたったことがあるのですが、その時の体験を書いたのが『狂気の起源をもとめて−パプア・ニューギニア紀行』です。 多くの症例を見る中で、野田氏は「個と社会の関係を問い続け、…

拓海広志「『象徴天皇という物語』に寄せて」

『異人論序説』の著者として知られる赤坂憲雄氏は、その著書『王と天皇』において「関係論」の一種である「異人論」を使って天皇に迫りました。 山口昌男氏の王権論などを援用して展開された赤坂氏の天皇論は大変興味深いものでしたが、「この方法では天皇制…

拓海広志「『一千一秒物語』に寄せて」

数あるタルホ作品の中でも、僕が一番好きなのは掌編小説集『一千一秒物語』です。ウィスキーを片手にこの本を読み、かつての神戸の夜を、あるいはプラハやエジンバラ、ダブリンあたりの街角を思いつつ、宇宙を幻視するのは至福の一時です。 そう言えば、『ス…

拓海広志「『帰らなかった日本兵』に寄せて」

インドネシアの各地を旅していると、太平洋戦争の後もそこに残留した元日本兵がいたという話をよく耳にします。 インドネシアに残留兵が多かったことには幾つか理由があっただろうと思います。中には、日本はこれからアメリカの植民地になってしまい、もうロ…

拓海広志「『クジラの島の少女』に寄せて」 

高校時代に太平洋の島々に対する僕の思いを決定づけたのは、マオリ人の母、アイルランド人の父を持つ民族学者ピーター・バックの古典的名著『偉大なる航海者たち』でした。 僕はこの本を通してポリネシア人の文化について学び、マオリのルーツに対して思いを…

拓海広志「『ナマコの眼』に寄せて」

『ナマコの眼』はとても平易に書かれた、誰が読んでも楽しめる本ですが、本書には鶴見良行さんの思想や世界観が凝縮されています。 本書においてナマコとは直叙でもあり、隠喩でもあります。ここで語られているのは紛れもなくナマコの話なのですが、海底に横…

拓海広志「『ハイ・ソサエティ』に寄せて」

レンタカーを借りてイギリスを一周したときに立ち寄った田舎の古城で、そこを所有している地方の金持ちの豪勢な暮らしぶりを見たことがあります。 その時、つい鼻歌で口ずさんでしまったのが、この映画の中でサッチモことルイ・アームストロングが歌う「ハイ…

拓海広志「『椿三十郎』に寄せて」

黒澤作品の中でどれか一作だけを選ぶとなると、僕は随分迷った末に『椿三十郎』をあげることにしています。 この頃の三船敏郎さんの格好良さと存在感は群を抜いていて、それはこの映画においてもそうです。特に居合抜きのような殺陣シーンは壮絶で必見です。…

拓海広志「『山の郵便配達』に寄せて」

「久しぶりに美しい映画を観たな〜」という思いに浸れた作品の一つです。 中国湖南省西部の山岳地帯で、生涯を掛けて郵便配達の仕事を勤め上げた男が、その役目を息子に譲ることにし、共に最後の配達の旅に出ます(2泊3日にわたるそれは「旅」と呼ぶべきで…

拓海広志「『こころの湯』に寄せて」

北京の下町胡同で銭湯を営む父。父を助けて働く知的障害者の次男。深センでビジネスに成功しながらも、家族との距離が遠くなってしまった長男。 亡くなった母の出身地は水を得ることが困難な西域であり、彼女が抱いていた沐浴への憧憬が彼らの銭湯への思いに…

拓海広志「『熊野山海民俗考』に寄せて」

熊野の海、川、山、人、食に惹かれ、僕は学生時代から今日に至るまでの間に数え切れぬほどの回数、紀伊半島の各地を訪ねてきました。そんな僕がイチオシの熊野本です。 「死者の国」として知られる熊野を日常の生活の場としてきた住民たちの自然観や、それに…

拓海広志「『環境戦略のすすめ』に寄せて」

環境問題は今日様々な場面で取り上げられますが、それを論ずる人の立場や考え方も多種多様で、正に百家争鳴状態だといえます。 人が環境を論ずるときに拠り所となる環境思想は古代から存在しました。しかし、「自然を克服すること」を是とする西欧的な近代思…

拓海広志「『星の航海術をもとめて』に寄せて」

航海術の基本は、「船の位置を求めること」と「船の向かう進路を求めること」という、空間認知にあります。まだ海図や航海計器のなかった時代の航海者たちの心には何らかのイメージマップがあり、彼らは天体、風、風浪とうねり、潮海流、海水の色、鳥や魚、…

拓海広志「『目を閉じて抱いて』に寄せて」

両性具有は完璧な人間の象徴です。洋の東西と時代を問わず、物語の中での両性具有者はその神秘性と越境性故に聖なる存在として描かれてきました。しかし、現実には多くの社会、時代において、半陰陽の人たちは何らかの差別を受けてきました。 内田春菊さんの…

拓海広志「『喜びも悲しみも幾歳月』に寄せて」

つい先ごろ、女島に残されていた日本最後の有人灯台がついに無人化されましたが、かつて灯台はそこで生活しながら灯りを守る灯台職員たちの不屈の努力によって保たれてきました。 灯台は往々にして辺鄙な岬の突端や崖の上、無人島などに位置していますので、…

拓海広志「ジプシー・キングス」

ジプシーの聖地・南仏のサント・マリー・ド・ラ・メールを訪ねたことがあるのですが、街のカフェやレストランの軒先でジプシーたちがギターをかき鳴らしながら歌っていた歌の中には、彼らのアルバムに収められている曲がたくさんありました。 今でも東欧あた…