Journey

拓海広志「与那国島にて・・・」

久しぶりに与那国島を訪ねて、海に潜った。与那国民俗資料館では、与那国島で生まれ育った館長の池間苗さんと半日話し込んだ。昔の与那国へは台湾経由で本土の文物が入っており、苗さんも頻繁に基隆や台北に出かけていたこと。そこで初めて汽車を見たこと。…

拓海広志「倶知安町の成人式」

ここ3年ほど、僕は毎年冬になるとスキーをするためにニセコを訪れている。いつもは一緒に海に出ているSaltyな仲間たちとの旅だが、僕らは山も大好きなのでこれもまた愉しい。 ニセコの山と雪、スキー場は好きでも、繁華街の夜の喧騒が嫌いな僕らは、人が少な…

拓海広志「旅の心」

長年にわたって世界と日本の各地を巡りながら旅暮らしを続けてきた僕だが、ここ2年ほどは旅の機会がかなり減っている。しかし、それは物理的な移動という意味での話であり、心理的なことで言うと僕は今でも日々旅を続けているのだと思う。 旅の心とは、日々…

拓海広志「恩納村の宿」

若い頃からずっと世界と日本の各地を旅してきたので、僕は様々なところに泊まってきました。これまでに泊まった宿の中には、僕が気に入って自分の定宿にしているところが幾つかあるのですが、最近泊まった沖縄本島の宿もなかなか印象的で、今後は定宿にした…

拓海広志「旅道具としてのカヤック」

僕が初めてカヤックを買ったのは今から30年ほど前の学生時代のことで、最初に手に入れたのはフジタカヌー製のファルトボート(折畳み式のカヤック)でした。当時はアウトドア関係の店でもカヤックを扱っているところは少なく、京都の藤田清さん(フジタカヌ…

拓海広志「『涙そうそう』に寄せて」

『涙そうそう』はBEGINのメロディー、森山良子さんの詞が共に素晴らしくて、僕の大好きな曲の一つです。それだけにこの同名映画の出来が少し気になっていたのですが、観てみると期待していた以上の内容でなかなか良かったです。 母の再婚によって新しい父と…

拓海広志「『補陀落の径』に寄せて」

角川春樹さんの俳句は、一つ一つの言葉に激しい情念が込められていて、そこにはまるで言霊が潜んでいるかのようです。だから、声に出して句を読み上げると、自分の魂が揺さぶられるような気がします。句集『補陀落の径』より、僕が特に気に入った句を幾つか…

拓海広志「『舟と港のある風景』に寄せて」

往年の名雑誌『あるく みる きく』の編集・執筆者として知られる森本孝さんが、かつて同誌などに書いた日本各地の漁村をめぐる紀行文が一冊の本にまとめられました。 海の厳しい自然と対峙しながらも、それと共生していくことを当然のこととする海人たちは、…

拓海広志「『UDON』に寄せて」

学生時代の僕はよく神戸や宇野から高松まで船で渡り、自転車やバイクで香川県の各地を巡りながらうどんの食べ歩きみたいな旅をしたものです。そんな経験があっただけに、この映画に出てくる「麺通団」の取材活動を見て、とても懐かしい気持ちになりました。 …

拓海広志「『隠国』に寄せて」

歌人であると同時にパステル画家でもある小黒世茂さんの歌は、鮮やかな色彩の表現に満ちています。そんな言葉の躍動に誘われるまま、僕たちは隠国・熊野へと分け入り、やがてその果てに広がる海原の彼方に補陀落をも幻視するのです。『隠国』は味わい深い歌…

拓海広志「『SHIMADAS』に寄せて」

日本離島センターが編集・発行している『SHIMADAS』は、日本の島ガイドの決定版と言って間違いないでしょう。 本書には、日本の850離島についての所在地、面積、標高、世帯数、平均年齢、産業、来島者数、交通、窓口、地図といった基本データから、島の暮ら…

拓海広志「『地下鉄に乗って』に寄せて」

浅田次郎さんの原作を読んでから観た映画ですが、原作に負けない、なかなか味のある作品に仕上がっていたと思います。 強権的なエゴイストである父を憎んで家を飛び出した男は、自分の中に父の性質と相通ずるものがあることを薄々感じつつも、それを否定しな…

拓海広志「『山びとの動物誌』に寄せて」 

宇江敏勝さんの数ある随筆集の中でも、僕が一番愛読しており、親しい友人のお子さんが読書適齢期になると送らせていただいているのがこの本です。 宇江さんは熊野の山々を転々と移動しながら生活する炭焼きの子として生まれましたが、その後林業関係の様々な…

拓海広志「『狂気の起源をもとめて』に寄せて」 

精神科医の野田正彰氏はパプア・ニューギニアで増えている分裂病患者の治療にあたったことがあるのですが、その時の体験を書いたのが『狂気の起源をもとめて−パプア・ニューギニア紀行』です。 多くの症例を見る中で、野田氏は「個と社会の関係を問い続け、…

拓海広志「『帰らなかった日本兵』に寄せて」

インドネシアの各地を旅していると、太平洋戦争の後もそこに残留した元日本兵がいたという話をよく耳にします。 インドネシアに残留兵が多かったことには幾つか理由があっただろうと思います。中には、日本はこれからアメリカの植民地になってしまい、もうロ…

拓海広志「『山の郵便配達』に寄せて」

「久しぶりに美しい映画を観たな〜」という思いに浸れた作品の一つです。 中国湖南省西部の山岳地帯で、生涯を掛けて郵便配達の仕事を勤め上げた男が、その役目を息子に譲ることにし、共に最後の配達の旅に出ます(2泊3日にわたるそれは「旅」と呼ぶべきで…

拓海広志「『熊野山海民俗考』に寄せて」

熊野の海、川、山、人、食に惹かれ、僕は学生時代から今日に至るまでの間に数え切れぬほどの回数、紀伊半島の各地を訪ねてきました。そんな僕がイチオシの熊野本です。 「死者の国」として知られる熊野を日常の生活の場としてきた住民たちの自然観や、それに…

拓海広志「久高島にて」

何年か前に沖縄県庁で離島の介護問題について考えるシンポジウムが催され(沖縄県立看護大学と沖縄県の共催)、僕もパネル・ディスカッションのパネラーとしてそこに招いていただきました。 昔から沖縄の離島は医師不足が悩みなのですが、看護師たちはそうい…

拓海広志「エアライン」

僕はいつも仕事と趣味で色々なところを旅しているため、飛行機に乗る機会がかなり多いです。利用するエアラインの種類も行く先によって多種多様なのですが、特にヨーロッパへはLH、アメリカへはUA、東南アジアへはSQ、TG、中国・香港へはNH(ANA)を、また日…

拓海広志「妖怪考」

一人旅が好きで、昔から暇さえあればリュックに旅道具と寝袋を詰め込んで出かける。汽車に乗って気の向いた駅で降りて街をぶらついたり、カヤックで川下りをして夕方になると河原にテントを張ったりといった具合だ。 夜、人気のないところで風の音や虫の声を…

拓海広志「チェスゲーム」

僕が中学生の頃、『宇宙大作戦』という日本語タイトルで『スタートレック』のテレビ版が深夜に放映されていました。僕はいつも独りでテレビの画面を見入りながら、カーク船長、スポック副長、マッコイ船医らのやりとりを楽しんだものです。 論理性を尊重する…

拓海広志「旅の効能」

僕は中学生のときに歴史学や民族学に興味を持ち、史跡や寺社などを訪ねて近畿各地を旅するようになったのですが、高校生になるとその行動半径は拡がり、気がついたら20歳になるまでに日本の全都道府県を巡っていました。当時の旅は鉄道やバス、船を乗り継…