拓海広志「『弟』に寄せて」

 螺旋状に重なり合う人生を、強い絆を持って共に歩んできた石原慎太郎さんと裕次郎さん。その歩みを辿りながら、鮮やかに蘇ってくる「昭和」という時代。『弟』は、僕が読んだことのある慎太郎さんの小説の中では一番面白かったです。


 特に「少年期」「海へ」「放蕩の季節」と続く、二人が社会に登場する前のストーリーには惹かれました。両氏の人生はこの時期にプログラミングされていたのではないかと思わせる挿話の数々は実に活き活きしています。


 それだけに裕次郎さんの後半生を描いた「血族」「闘病」「虹」といった章は、読み進めるのが少々辛くなりました。それは、時代の寵児故に背負わねばならなかった重い宿命だったのでしょうか。


 日本の芸能人の生涯を題材とした小説としては、中上健次さんの『天の歌 小説・都はるみ』と共に、お勧めしたい作品です。


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