拓海広志「『クジラの島の少女』に寄せて」 

 高校時代に太平洋の島々に対する僕の思いを決定づけたのは、マオリ人の母、アイルランド人の父を持つ民族学ピーター・バックの古典的名著『偉大なる航海者たち』でした。


 僕はこの本を通してポリネシア人の文化について学び、マオリのルーツに対して思いを寄せるようになったのです。


 映画『クジラの島の少女』は現代ニュージーランドを舞台に、その内部に微妙な温度差を孕みつつも伝統文化を守り、他方では現代社会にもそれなりに適応しているマオリの人々を描いています。


 族長である老人は、クジラに乗ってやって来たという祖先の伝説を持つ一族のリーダーにふさわしい後継者として、男の子の誕生を待ち望んでいたのですが、彼が授かった孫は女の子でした。


 一族の誇りを継ぐべく努力を重ねる少女と、彼女のことを孫として愛しつつも、その努力を頑なに無視する老人・・・。しかし、ある日浜にストランディングし、死を迎えつつあったクジラたちを救ったのは少女だったのです。


 老人は少女に宿った祖先の魂を目撃し、自らの心の狭さを恥じます。そして、少女は族長の後継者として認められていきます。


 クジラとの交歓を通してマオリの血に目覚めた少女の物語にふれ、僕は久しぶりにマオリアイデンティティを高らかに謳ったピーター・バックの本を読みたくなりました。


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偉大なる航海者たち (1966年) (現代教養文庫)

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