拓海広志「『喜びも悲しみも幾歳月』に寄せて」

 つい先ごろ、女島に残されていた日本最後の有人灯台がついに無人化されましたが、かつて灯台はそこで生活しながら灯りを守る灯台職員たちの不屈の努力によって保たれてきました。


 灯台は往々にして辺鄙な岬の突端や崖の上、無人島などに位置していますので、職員の労働は勿論のこと、そこで生活を共にした家族の苦労は並大抵のものではなかったでしょう。


 かつて日本では河川や沿岸に立てられた航路標識のことを澪標(みおつくし)と呼びましたが、この語はよく「身を尽くし」と掛けられて、和歌にも詠まれました。


 灯台は現代の澪漂ですが、灯台を守ってきた職員と家族の人生は、正に「身を尽くし」という形容がふさわしいものだったのではないかと思います。


 木下恵介監督の映画『喜びも悲しみも幾歳月』は戦前から戦後にかけて日本各地の灯台を転々としながら働いてきた灯台職員の人生を描いたもので、その仕事にかける情熱と家族や同僚たちとの絆に胸を打たれます。


 一見単調で淡々としているように見える労働と生活の中にこそある、人生の奥深さと豊かな愛情を感じさせてくれる名作です。


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