拓海広志「『環境戦略のすすめ』に寄せて」

 環境問題は今日様々な場面で取り上げられますが、それを論ずる人の立場や考え方も多種多様で、正に百家争鳴状態だといえます。


 人が環境を論ずるときに拠り所となる環境思想は古代から存在しました。しかし、「自然を克服すること」を是とする西欧的な近代思想が世界に拡がり、人間活動の量的拡大に伴う環境問題の地球規模化が取り沙汰される中で、環境についての考え方も近・現代思想の数だけ多様化しているのが現状です。


 海上知明さんは前著『環境思想』において、こうした環境思想の多くを体系的に分類し、それぞれの由来や論拠を明らかにしてみせました。しかし、自らもその議論の渦の中に飛び込んで自身の環境思想を表明するのではなく、近著『環境戦略のすすめ』ではそうした様々な環境思想の対立を超えうる政策提言を行っています。


 このアプローチは極めて戦略的かつ実践的であり、国家としてのエネルギー政策、安全保障政策、農業政策などを考える上でも、企業としての経営やマーケティングのあり方を考える上でも、また地域社会のあり方や僕たちの日々の暮らしについて考える上でも、非常に参考になります。


 問題が複雑に絡み合っているように見えるときこそ、それらを根こそぎ解決する戦略的アプローチが必要だと海上さんは主張します。環境問題が渦巻く現状を社会変革の「好機」と捉え、ありがちな終末論や悲観論で停滞するのではなく、前向きに物事を捉えていこうという海上さんに対し、僕は強い共感をおぼえました。


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