2007-01-01から1年間の記事一覧

拓海広志「『航海者』に寄せて」

『航海者』は三浦按針ことウィリアム・アダムスの半生を描いた作品で、数ある白石一郎さんの海洋小説群の中でも読み応えのある力作です。特に帆船「リーフデ」による厳しい航海と臼杵への漂着を描いた序章「マゼラン海峡」は圧巻で、死の危機に直面した航海…

拓海広志「『ビジュアルでわかる船と海運のはなし(改訂増補版)』発行のお知らせ」

昨年5月に拙著『ビジュアルでわかる船と海運のはなし』(成山堂書店)を世に送り出してから約1年半が経過しました。この間にも海運・物流業界は激しく動いており、そうした変化の概要を記述するために3版目となる今版(11月8日発行)を改訂増補版とさせてい…

拓海広志「『Changes in Latitudes, Changes in Attitudes』に寄せて」

歌詞もメロディーも取り立てていうほどの内容ではないのに、ついLPレコードを手にしてプレーヤーに掛けてしまう70年代後半のイージーリスニングの代表格。そんな風に言うと、ちょっと失礼でしょうか? でも、僕は中学生の頃にこのアルバムに収められている『…

拓海広志「『地域漁業の社会と生態』に寄せて」

筆者の北窓時男さんは現在でこそ研究者の道を歩んでいますが、元々は海外青年協力隊や民間会社に属しながら、東南アジアの漁業実態を調査してこられた方です。 本書は同氏のインドネシアでのフィールドワークが結実したものです。テーマは「漁業技術」という…

拓海広志「『墓場鬼太郎』に寄せて」

僕は昔から水木しげるさんの作品群の大ファンなのですが、貸本まんが時代の幻の名作『墓場鬼太郎』を初めて読んだときの不気味さと爽快さの同居した独特の感覚は、今でも忘れられません。 そこには『ゲゲゲの鬼太郎』に見られる人間贔屓のお人好しな鬼太郎は…

拓海広志「『さんせう太夫考』に寄せて」

ごく教科書的な言い方をすると、説経とは経文の意味を説くための仏教説話ということになります。しかし、「さんせう太夫」「しんとく丸」「小栗判官」「かるかや」「愛護の若」といった中世の代表的な説経に共通しているのは、それを語りながら旅暮らしを続…

拓海広志「Logistics - IT Forumのご報告」

先月のことですが、僕は日本IBM主催のフォーラム『進化する企業のロジスティクスとIT戦略』に出席する機会を与えていただきました。主たるテーマは「ロジスティックスとITの関係」「RFID(ICタグ)の今後」「3PL(3rd party logistics)の今後」という三点で…

拓海広志「『ラストワンマイル』に寄せて」

物流があらゆる産業の足下を支える重要なものであること、またそれが顧客サービスレベルの向上やリードタイム短縮、在庫削減などといったSCMの課題を実現する上で鍵を握っていることは、今日のビジネスにおける常識です。 しかし、その重要性にもかかわらず…

拓海広志「ホクレア号横浜寄港記念シンポジウム」

先だって紹介させていただいたハワイのカヌー「ホクレア」がいよいよ日本にやって来ました。糸満、宇土、長崎、福岡、周防大島、広島、宇和島と各地を巡り、ゴールは横浜となります(先日、僕も周防大島で翻訳家の加藤晃生さんと共に「ホクレア」を迎えまし…

拓海広志「『守護神』に寄せて」

最初にこの映画のタイトルを聞いたときに「守護霊」と読み違え、心霊映画なのかと勘違いしてしまいましたが(笑)、実はアラスカの海で黙々と遭難者たちを救い続けた真の海の男の物語であることを知り、胸が熱くなりました。 2005年の夏にハリケーン・カトリ…

拓海広志「海工房 - Bahariシリーズのご紹介」

門田修さん率いる海工房が「バハリ・シリーズ」と称する素晴らしい映像記録を発表し続けています。門田さん曰く、「Bahari(バハリ)の主題は『ヒトと自然とのかかわり』『ヒトはいかに生きてきたか』の二点」とのことで、これは「ヒトと自然とモノの関係性…

拓海広志「上川あやさんへの応援メッセージ」

自分が内面に抱える難問をごまかすことなく、真っ直ぐ向き合って乗り越えてきた人だけが持つ優しさ。それが、数年前に上川あやさんに初めてお会いしたときに受けた僕の第一印象です。その後、彼女が世田谷区議会議員に立候補すると聞き、僕は彼女ならきっと…

拓海広志「『涙そうそう』に寄せて」

『涙そうそう』はBEGINのメロディー、森山良子さんの詞が共に素晴らしくて、僕の大好きな曲の一つです。それだけにこの同名映画の出来が少し気になっていたのですが、観てみると期待していた以上の内容でなかなか良かったです。 母の再婚によって新しい父と…

拓海広志「『補陀落の径』に寄せて」

角川春樹さんの俳句は、一つ一つの言葉に激しい情念が込められていて、そこにはまるで言霊が潜んでいるかのようです。だから、声に出して句を読み上げると、自分の魂が揺さぶられるような気がします。句集『補陀落の径』より、僕が特に気に入った句を幾つか…

拓海広志「ホクレア・クルーへの支援」

既に各方面で広く報道されていますが、ハワイの遠洋航海カヌー「ホクレア」が今春日本にやって来ます。ミクロネシアを経ての長い航海です。日本での寄港予定地は糸満、宇土、長崎、福岡、周防大島、広島、宇和島、横浜と、僕にとっても思い入れのあるところ…

拓海広志「『舟と港のある風景』に寄せて」

往年の名雑誌『あるく みる きく』の編集・執筆者として知られる森本孝さんが、かつて同誌などに書いた日本各地の漁村をめぐる紀行文が一冊の本にまとめられました。 海の厳しい自然と対峙しながらも、それと共生していくことを当然のこととする海人たちは、…

拓海広志「『蔵人(クロード)』に寄せて」

20数年来の我が愛読誌『ビッグコミックオリジナル』にこの作品の連載が始まり、しばらくは「どうなることか」と固唾を呑んで見守っていました。と言うのも、僕には尾瀬あきらさんの名作『夏子の酒』を読んで大いに感動した過去があるので、再び酒造りを主題…

拓海広志「『UDON』に寄せて」

学生時代の僕はよく神戸や宇野から高松まで船で渡り、自転車やバイクで香川県の各地を巡りながらうどんの食べ歩きみたいな旅をしたものです。そんな経験があっただけに、この映画に出てくる「麺通団」の取材活動を見て、とても懐かしい気持ちになりました。 …

拓海広志「『大阪ハムレット』に寄せて」

第三者からはチッポケに見えても、当事者にとっては人生を左右しうる深刻な問題。ごく普通の日常に潜むそんな問題を軸に、森下裕美さんは様々な物語を紡いでいきます。舞台となるのは天下茶屋、岸和田、難波、天保山といった大阪の人情あふれる町々。。。 登…

拓海広志「『薬物依存を越えて』に寄せて」

以前『薬物依存を越えて』の著者・近藤恒夫さんを西宮にお招きして講演をしていただいたことがあるのですが、その際に近藤さんがおっしゃっていた「政府広報は『覚醒剤をやめますか? それとも人間をやめますか?』なんて言うけど、実のところ覚醒剤をやるの…

拓海広志「『小泉の勝利 メディアの敗北』に寄せて」

『小泉の勝利 メディアの敗北』−事実がこの書名の通りであったことを国民の多くは認識していますが、それを真摯に検証しようというメディア側の作業はこれまでほとんど行われてきませんでした。そんな中で、自らの過去の記事を再掲し、何故自分が小泉政治を…

拓海広志「『遺伝子工学の現状と未来』に寄せて」

遺伝子工学が世間の脚光を浴びるようになったのはかなり前のことですが、昭和57年に出版された『遺伝子工学の現状と未来―アメリカ合衆国議会特別調査』を読み直してみました。その中で、植物の遺伝資源取り扱いにおける問題点として指摘されていた以下の点は…

拓海広志「『柳に風』に寄せて」

古田新太さんの『柳に風』は、実に楽しいコラム集でした。僕は「劇団☆新感線」デビュー前からの古田ファンなので、この本に書かれていた神戸時代の思い出話や大阪時代の逸話を読んで、懐かしさのあまりとても嬉しくなりました。でも、それ以上に嬉しかったの…

拓海広志「『隠国』に寄せて」

歌人であると同時にパステル画家でもある小黒世茂さんの歌は、鮮やかな色彩の表現に満ちています。そんな言葉の躍動に誘われるまま、僕たちは隠国・熊野へと分け入り、やがてその果てに広がる海原の彼方に補陀落をも幻視するのです。『隠国』は味わい深い歌…

拓海広志「劇団鹿殺し」

以前西宮をベースに関西で活躍していた劇団鹿殺しも、2年前に東京にベースを移して以来、徐々に全国区へと成長を遂げてきました。そんな彼らが神戸新開地の小劇場で『僕を愛ちて。』という芝居をやるというので、観てきました。 亡くなった母への追慕と父へ…

拓海広志「『プロデューサーズ』に寄せて」

これは僕がニューヨークへ行く度に観たいと思いつつ、なかなか願いが叶わなかった作品なのですが、遂に映画で登場してくれました。 どーしようもないくらい俗っぽい表現とくだらない駄洒落、そしてブラックな差別ネタや下ネタが満載のちょっとやばい作品なの…

拓海広志「『SHIMADAS』に寄せて」

日本離島センターが編集・発行している『SHIMADAS』は、日本の島ガイドの決定版と言って間違いないでしょう。 本書には、日本の850離島についての所在地、面積、標高、世帯数、平均年齢、産業、来島者数、交通、窓口、地図といった基本データから、島の暮ら…

拓海広志「『力道山』に寄せて」

かつて日本のプロレスが持っていた魅力を一言で言うと、社会の表通りをうまく歩めなかった男たちのコンプレックスに満ちた情念がリング上で発散され、やがてマーシャル・アーツを超えた人間ドラマへと昇華されていたところにあったのだろうと思います。 肩を…

拓海広志「『スンダ・過ぎし日の夢』に寄せて」

『スンダ・過ぎし日の夢』は、インドネシアを代表する作家アイプ・ロシディさんの短編小説集です。本書所収の『山羊』は1959年に発表された作品ですが、当時のインドネシアは独立してからまだ十数年しか経っておらず、ジャカルタもまだ現在のような大都会に…

拓海広志「『東京タワー−オカンとボクと、時々、オトン』に寄せて」

リリー・フランキーさんの『東京タワー−オカンとボクと、時々、オトン』はとても心地よいリズムを持った文体の小説で、内容的にもかなり面白いです。リリーさんは僕と同世代の人なので小説の背景となった時代に対する感覚が似ており、僕はその分余計に感情移…