拓海広志「『狂気の起源をもとめて』に寄せて」 

 精神科医の野田正彰氏はパプア・ニューギニアで増えている分裂病患者の治療にあたったことがあるのですが、その時の体験を書いたのが『狂気の起源をもとめて−パプア・ニューギニア紀行』です。


 多くの症例を見る中で、野田氏は「個と社会の関係を問い続け、それによって個性を確立していく」という文化のあり方が、分裂病出現の前提となっていることに気づきます。つまり、個と集団の関係が安定している社会においては分裂病は出現しにくいが、強い影響力を持つ他集団=異文化と接触することによって、個と集団の関係が不安定になった時に、分裂病が出現してくるというのです。


 これは、かつて西欧の近代文明と激しく接触した際のインドネシアで「アモック(発狂)」が多発したことや、現在のミクロネシアで米国の大学に留学した若いエリート達が、島に戻ってからノイローゼに陥ったり、自殺したりすることとも相通ずる現象のように思われます。


 日本でも明治期から昭和初期にかけて、西欧に留学したエリート達や、西欧の思想・学問を必死になって吸収しようとした知識人の中に精神分裂病に陥った人が少なからずいましたが、こうしたことはいつの時代のどんな場所でも起こりうることなのでしょう。


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 拓海広志『信天翁ノート(3)』


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