拓海広志「『椿三十郎』に寄せて」

 黒澤作品の中でどれか一作だけを選ぶとなると、僕は随分迷った末に『椿三十郎』をあげることにしています。


 この頃の三船敏郎さんの格好良さと存在感は群を抜いていて、それはこの映画においてもそうです。特に居合抜きのような殺陣シーンは壮絶で必見です。


 しかし、この映画の魅力は孤高のヒーローとしての椿三十郎三船敏郎)の格好良さにあるのではなく、全篇を通して漂う何とも言えないほんわかとした、優雅でおかし味のある雰囲気にあります。


 三十郎もついそれに巻き込まれていき、「なんだか調子が狂っちまうぜ」と苦笑いしているような空気が漂ってくるのが、上質な喜劇を観ているようで楽しいです。何度観ても飽きのこないエンターテーメント映画の代表のような作品です。


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