Review

拓海広志「『万華鏡讃歌』に寄せて」

友人の女優・知江碕ハルカさんが出演するというので、池袋まで足を運んで劇団・流星揚羽の芝居『万華鏡讃歌』を観てきました。役者さんたちの動きがリズミカルで躍動的なのが印象的で、全ての登場人物がどこかコミカルだけど人間的な温かみを感じさせるとい…

拓海広志「『市民の力で東北復興』に寄せて・・・」

米沢を拠点とするボランティア山形の中心的存在である井上肇さん、丸山弘志さん、そして綾部誠さん、新関寧さんの4人が、東日本大震災後の1年間の活動記録として『市民の力で東北復興』という本を出された。震災や津波による被害だけではなく、原発事故によ…

拓海広志「ふるきゃら復活!」

今年の2月に自己破産した「劇団ふるさときゃらばん」(通称「ふるきゃら」)が「チーム石塚・新生ふるきゃら」として再出発したので、外苑前までその旗揚げ公演を観に行った。演目は『トランクロードのかぐや姫』、中山道の古い宿場町の商店街を舞台とした、…

拓海広志「『海の翼』に寄せて」

和歌山県の串本沖に浮かぶ紀伊大島は、僕がセーリングやダイビング、カヤッキングなどをするために、これまでに何度も訪ねたことのある島だ。太平洋の荒波に洗われる島の南側には断崖絶壁が切り立っており、天候の穏やかな時でも島へのアプローチは容易では…

拓海広志「『アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ』に寄せて」

吉祥寺の「吉祥寺シアター」で、坂出洋二さんの演出による燐光群の芝居『アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ』を観てきました。主人公のシャーロッテ・フォン・マーシュドルフは、同性愛者・服装倒錯者として、ナチス時代のドイツ、また共産主義時代の東ドイ…

拓海広志「『ANJIN イングリッシュサムライ』に寄せて」

三浦按針ことウィリアム・アダムズの生涯を題材とした芝居が日英合作で制作されたと聞き、さっそく観に行ってきました。按針役はイギリスを代表する俳優のオーウェン・ティールさんで、僕の好きな俳優である市村正親さんと藤原竜也さんが、それぞれ徳川家康…

拓海広志「『澪つくし』に寄せて」

どの作品も読み応えのある短編小説集だ。全ての作品に共通しているのは、ストーリーを冷静に眺めると必ずしも不可思議な出来事とも言えないのに、登場人物の思考を通して読者は想像力を飛翔させ、その結果として何とも言えない恐怖感が湧き起こってくること…

拓海広志「『真鶴』に寄せて」

半島には強い<場>の力を持つところが多いが、真鶴という小さな半島もそうで、僕もその<場>の力に惹かれて20年来真鶴に通い続けている。 本書の主人公・京は、その内なる存在が幻覚・幻聴として出現した、影の女に誘われるようにして真鶴に通う。失踪した…

拓海広志「『ローゼ・ベルント』に寄せて』

調布の仙川という街で燐光群の芝居を観た。学生時代の僕は暇さえあれば芝居を観に行っていたのだが、今でもよく足を運ぶのは学生時代からの友人・古田新太さんが活躍する劇団☆新感線、僕が縁あって応援団に名を連ねている劇団ふるさときゃらばん、そして燐光…

拓海広志「『墓場鬼太郎』に寄せて」

僕は昔から水木しげるさんの作品群の大ファンなのですが、貸本まんが時代の幻の名作『墓場鬼太郎』を初めて読んだときの不気味さと爽快さの同居した独特の感覚は、今でも忘れられません。 そこには『ゲゲゲの鬼太郎』に見られる人間贔屓のお人好しな鬼太郎は…

拓海広志「『さんせう太夫考』に寄せて」

ごく教科書的な言い方をすると、説経とは経文の意味を説くための仏教説話ということになります。しかし、「さんせう太夫」「しんとく丸」「小栗判官」「かるかや」「愛護の若」といった中世の代表的な説経に共通しているのは、それを語りながら旅暮らしを続…

拓海広志「『ラストワンマイル』に寄せて」

物流があらゆる産業の足下を支える重要なものであること、またそれが顧客サービスレベルの向上やリードタイム短縮、在庫削減などといったSCMの課題を実現する上で鍵を握っていることは、今日のビジネスにおける常識です。 しかし、その重要性にもかかわらず…

拓海広志「『小泉の勝利 メディアの敗北』に寄せて」

『小泉の勝利 メディアの敗北』−事実がこの書名の通りであったことを国民の多くは認識していますが、それを真摯に検証しようというメディア側の作業はこれまでほとんど行われてきませんでした。そんな中で、自らの過去の記事を再掲し、何故自分が小泉政治を…

拓海広志「『柳に風』に寄せて」

古田新太さんの『柳に風』は、実に楽しいコラム集でした。僕は「劇団☆新感線」デビュー前からの古田ファンなので、この本に書かれていた神戸時代の思い出話や大阪時代の逸話を読んで、懐かしさのあまりとても嬉しくなりました。でも、それ以上に嬉しかったの…

拓海広志「劇団鹿殺し」

以前西宮をベースに関西で活躍していた劇団鹿殺しも、2年前に東京にベースを移して以来、徐々に全国区へと成長を遂げてきました。そんな彼らが神戸新開地の小劇場で『僕を愛ちて。』という芝居をやるというので、観てきました。 亡くなった母への追慕と父へ…

拓海広志「『プロデューサーズ』に寄せて」

これは僕がニューヨークへ行く度に観たいと思いつつ、なかなか願いが叶わなかった作品なのですが、遂に映画で登場してくれました。 どーしようもないくらい俗っぽい表現とくだらない駄洒落、そしてブラックな差別ネタや下ネタが満載のちょっとやばい作品なの…

拓海広志「『スンダ・過ぎし日の夢』に寄せて」

『スンダ・過ぎし日の夢』は、インドネシアを代表する作家アイプ・ロシディさんの短編小説集です。本書所収の『山羊』は1959年に発表された作品ですが、当時のインドネシアは独立してからまだ十数年しか経っておらず、ジャカルタもまだ現在のような大都会に…

拓海広志「『おもちゃ』に寄せて」

この小説を読み進むにつれて各場面の様子が活き活きと目に浮かんでくるのは、深作欣二監督による映画『おもちゃ』(脚本:新藤兼人)を先に観てしまったせいもあるのでしょうが、それ以上に会話が多く小気味の良い新藤さんの文体によるのでしょう。 『おもち…

拓海広志「『善悪の彼岸』&『道徳の系譜』に寄せて」 

学生時代にニーチェの『善悪の彼岸』と『道徳の系譜』を読んだ時に、僕の心に残ったアフォリズムを幾つか抜粋してみます。 「いたわりつつ殺す手を見たことのない者は、人生を厳しく見た人ではない」 「道徳的現象なるものは存在しない。あるのはただ、現象…

拓海広志「『闘論2000年の埋葬』に寄せて」

『闘論2000年の埋葬』は栗本慎一郎氏と田原総一郎氏の対談ですが、この中で栗本氏は、天皇制は古代に対立していた縄文勢力と弥生勢力の妥協の産物であり、渡来人である弥生人は縄文の首長をそのまま天皇として奉りつつ、統治システムは自分たちが持ち込んだ…

拓海広志「『共同研究「冷戦以後」』に寄せて」 

中曽根康弘、村上泰亮、佐藤誠三郎、西部邁氏の共著『共同研究「冷戦以後」』には、「伝統を保守するということは、慣習の中に堆積されている過去、現在、未来の間の集団的な平衡感覚を参照するということだ」という考え方が示されています。 そこに「他集団…

拓海広志「『おれがあいつであいつがおれで』に寄せて」 

『おれがあいつであいつがおれで』は男の子と女の子が入れ替わるという『とりかへばや物語』の現代版、NHKのドラマ『どっちがどっち』の原作です。 お互いの身体が入れ替わることによって、二人は徐々により深く相手のことを理解するようになりますが、そ…

拓海広志「『意識と脳』に寄せて」

「生命の起源と人類文化の将来を考えるときに、太陽系の歴史が問題になる」。『意識と脳−精神と物質の科学哲学』という著書でそう語る品川嘉也氏は、人間界を含む自然界で起こる出来事の間には相互に何らかの関係があり、その場合の自然界というのは少なくと…

拓海広志「『象徴天皇という物語』に寄せて」

『異人論序説』の著者として知られる赤坂憲雄氏は、その著書『王と天皇』において「関係論」の一種である「異人論」を使って天皇に迫りました。 山口昌男氏の王権論などを援用して展開された赤坂氏の天皇論は大変興味深いものでしたが、「この方法では天皇制…

拓海広志「『椿三十郎』に寄せて」

黒澤作品の中でどれか一作だけを選ぶとなると、僕は随分迷った末に『椿三十郎』をあげることにしています。 この頃の三船敏郎さんの格好良さと存在感は群を抜いていて、それはこの映画においてもそうです。特に居合抜きのような殺陣シーンは壮絶で必見です。…

拓海広志「『こころの湯』に寄せて」

北京の下町胡同で銭湯を営む父。父を助けて働く知的障害者の次男。深センでビジネスに成功しながらも、家族との距離が遠くなってしまった長男。 亡くなった母の出身地は水を得ることが困難な西域であり、彼女が抱いていた沐浴への憧憬が彼らの銭湯への思いに…

拓海広志「『環境戦略のすすめ』に寄せて」

環境問題は今日様々な場面で取り上げられますが、それを論ずる人の立場や考え方も多種多様で、正に百家争鳴状態だといえます。 人が環境を論ずるときに拠り所となる環境思想は古代から存在しました。しかし、「自然を克服すること」を是とする西欧的な近代思…

拓海広志「『目を閉じて抱いて』に寄せて」

両性具有は完璧な人間の象徴です。洋の東西と時代を問わず、物語の中での両性具有者はその神秘性と越境性故に聖なる存在として描かれてきました。しかし、現実には多くの社会、時代において、半陰陽の人たちは何らかの差別を受けてきました。 内田春菊さんの…

拓海広志「吉本隆明初期3部作」

『言語にとって美とはなにか』 学生時代に熊野の本宮から小雲取、大雲取を越えて那智へ抜ける道、つまり中辺路を初めて歩いた時のことです。鬱蒼と続く杉林をひたすら歩いて峠を越えると、いきなり眼前に真っ青な太平洋が広がっていました。それを見た僕はも…

拓海広志「田中美津さんの新著」

田中美津さんと初めてお会いしたのは、僕たちが8年ほど前に「TSとTGを支える人々の会」(HPは下記)の人たちと共に茅ヶ崎で催した性同一性障害について考えるシンポジウム&交流会の場(主催:アルバトロス・クラブ)でした。 「嫌いな男に胸を触られたらセ…