拓海広志「『市民の力で東北復興』に寄せて・・・」

 米沢を拠点とするボランティア山形の中心的存在である井上肇さん、丸山弘志さん、そして綾部誠さん、新関寧さんの4人が、東日本大震災後の1年間の活動記録として『市民の力で東北復興』という本を出された。震災や津波による被害だけではなく、原発事故による放射能汚染から逃れるため、米沢には福島から多くの避難者がやって来ている。こうした方々への生活支援をはじめ、東北の被災地・避難所への支援物資の提供と輸送、東北で活動する様々なボランティア団体への中間支援、そして行政への政策提言が、この1年間のボランティア山形の活動の柱だった。


 ボランティア山形が結成されたのは1995年1月の阪神淡路大震災の時で、それは当時井上さんが常務理事を務めていた米沢生活協同組合(現・生活クラブやまがた生活協同組合。井上さんは2006年から2011年までその理事長を務められた)を軸に組織された。井上さんたちは被災地となった神戸への支援に尽力され、そこで被災地でのボランティア・マネジメントの様々なノウハウも身につけられた。当時神戸では、政治、NGO、ビジネスと多方面で活躍されていた丸山弘志さんが自ら被災しながらも、被災者支援と町の復興のために奔走していた。お二人の出会いはそこにさかのぼる。


 東日本大震災の発生直後に井上さんが丸山さんを米沢に招聘したのは、丸山さんの神戸での経験を活かしてもらうためだったというが、その考えは見事に当たった。特に避難所や被災地でのボランティア・マネジメント、行政への政策提言という面において、丸山さんが果たした功績は大きいと僕は思う。井上さんと丸山さんはお二人とも懐の深いリーダーシップを持つ魅力的な方々で、その周りには綾部誠さんや新関寧さんをはじめ、様々なジャンルの専門家が集い、そうした人々が協力しながら事に当たる体制が作られた。ボランティア山形のあり方は今後の災害ボランティア・マネジメントやボランティア団体への中間支援について考える際に非常に参考になるものであり、そのためにも本書は多くの人に読まれるべきだろう。


 しかし、ボランティア山形の活動を根っこのところで支えているのは、生活クラブやまがた生活協同組合の職員と組合員の方々の協力だということも見落としてはならない。僕が米沢へ行くたびに感心するのは、ボランティア山形が活動拠点とする「グループホーム結いのき」の職員の方々が忙しい介護の仕事の合間を縫って、ボランティア・メンバーのために朝・昼・夜の食事を用意したり、寝泊まりする場所を提供してくださることだ。特に食事の提供については多くの組合員も協力してくださっているということを聞いたときには、思わず手を合わせてしまった。人が社会で安心して暮らしていくためには、公助、共助、互助の全てが必要だというが、米沢では元々それらがしっかり根付いていたからこそ、今回のボランティア山形の活動がうまく進んだのではないかと思う。本書においてもそのことが語られているが、それを読むと普段からの地域づくり、コミュニティ作りの大切さにも思い至らされる。


 本書の収益金はボランティア山形の活動費に充てられるとのことなので、是非多くの方に買っていただきたいとお願いする次第だ。


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