拓海広志「『澪つくし』に寄せて」
どの作品も読み応えのある短編小説集だ。全ての作品に共通しているのは、ストーリーを冷静に眺めると必ずしも不可思議な出来事とも言えないのに、登場人物の思考を通して読者は想像力を飛翔させ、その結果として何とも言えない恐怖感が湧き起こってくることだろう。
『かっぱタクシー』は、痴呆症の老妻の昔語りによって、過去に犯した罪に苛まれる男の話だが、妻の語りのどれが真実なのかがわからない。また、そもそも老妻は本当に呆けているのか、それとも夫への復讐のために痴呆を装っているのかがわからない。これはなかなか怖い。
その他にも、『三途BAR』『ジェリーフィッシュ』『彼岸橋』『雨女』・・・と、怖いけれど、ファンタジックで温かみの漂う佳作が並んでおり、僕は雪の中を青森から八戸へ向かう汽車の中で本書を一気に読み上げてしまった。明野照葉さんは、僕が今後もっと作品を読みたい作家の一人である。
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