拓海広志「『ローゼ・ベルント』に寄せて』
調布の仙川という街で燐光群の芝居を観た。学生時代の僕は暇さえあれば芝居を観に行っていたのだが、今でもよく足を運ぶのは学生時代からの友人・古田新太さんが活躍する劇団☆新感線、僕が縁あって応援団に名を連ねている劇団ふるさときゃらばん、そして燐光群の芝居である。
10数年前にジャカルタのトゥグ村で僕が友人たちと共に催した「クロンチョンの会」に坂手洋二さんがお越しになったことが縁となり、僕は燐光群の芝居に通うようになったのだが、骨太で直截な社会批判、権力批判と個々の生活者への優しい眼差しが同居する坂手さんの作品にはいつも強いインスピレーションを与えられる。
『ローゼ・ベルント』はドイツの劇作家ゲアハルト・ハウプトマンが100年前に書いた戯曲を、坂手さんが現在の日本の状況に合わせて再構築したものだ。貧困と格差、宗教と性愛と差別、そして家族の崩壊。100年前のドイツと現代日本の間でこれらの問題群が通底することを知り、その根深さに思い至った。
役者の中ではローゼ役の占部房子さんの演技が素晴らしく、理不尽な状況下で激しく葛藤しながら、次第に自分を見失って破滅的な行動を取るローゼの姿には鬼気迫るものがあった。坂手さんが解説するように、ローゼは共同体の幻想によってスポイルされたのであり、その時代と場所が彼女を必要としたのかも知れない。
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