拓海広志「『真鶴』に寄せて」

 半島には強い<場>の力を持つところが多いが、真鶴という小さな半島もそうで、僕もその<場>の力に惹かれて20年来真鶴に通い続けている。


 本書の主人公・京は、その内なる存在が幻覚・幻聴として出現した、影の女に誘われるようにして真鶴に通う。失踪した彼女の夫・礼は既に異界の住人となっており、真鶴の海はその異界への入口だということを影の女が示唆するからだ。


 真鶴半島が発する霊的な気配や、その海に同居する明るさと暗さといったものが、この小説ではよく表現されている。しかし、その地と海には深遠なる治癒力があり、京は真鶴に通うことで自らの病んだ心を癒していく。


 人の心が形作られたり、あるいは、変容、再生していく際に、特定の地が持つ<場>の力が大きな役割を果たすことがある。僕も真鶴にその力を感じている。。。


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真鶴 (文春文庫)

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