拓海広志「『アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ』に寄せて」

 吉祥寺の「吉祥寺シアター」で、坂出洋二さんの演出による燐光群の芝居『アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ』を観てきました。主人公のシャーロッテ・フォン・マーシュドルフは、同性愛者・服装倒錯者として、ナチス時代のドイツ、また共産主義時代の東ドイツにおいて、波乱に満ちた人生を生き抜いたことで知られる実在の人物です。


 今回の演出で興味深かったのは、16人もの役者が同時に主人公を演じることにより、シャーロッテという人物が持つ多面性や多義性を表現しようとしていたことです。もちろん、一人の役者がそれらを全て表現する手法もあるはずですが、僕は今回の演出をなかなか面白く拝見しました。


 芝居が進むにつれ、シャーロッテの語っていることのうち、どれが本当の事なのかがよくわからなくなってきます。しかし、この世で起こる全ての出来事に関し、「事実」はたった一つであっても、「真実」はそれに関わる人の数だけありうるというのが僕の持論です。シャーロッテはその多面性と多義性の中でもしっかりと自分自身の「真実」を持っており、この芝居は彼女にとっての「真実」を発見するための物語であったように思います。


 それにしても、井の頭線の沿線は素敵ですね。特に吉祥寺と下北沢は芝居の前後にぶらぶらと散策するにはよい町だと思います。先だって燐光群の『BUG』という芝居に足を運んだ際にも、僕は下北沢駅周辺を散歩しながら同じことを思いましたが、普通の生活空間の中に演劇空間が溶け込んでいるという点において、この二つの町には共通する空気があるようです。これは芝居好きにはなかなか嬉しい空気です(笑)。


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