拓海広志「『航海者』に寄せて」
『航海者』は三浦按針ことウィリアム・アダムスの半生を描いた作品で、数ある白石一郎さんの海洋小説群の中でも読み応えのある力作です。特に帆船「リーフデ」による厳しい航海と臼杵への漂着を描いた序章「マゼラン海峡」は圧巻で、死の危機に直面した航海者たちが「航海することが必要だ。生きることは必要ではない」を合言葉に恐怖に立ち向かっていくさまには鬼気迫るものがあります。
日本に辿り着いたアダムスは徳川家康の寵愛を受け、やがてその家臣として三浦に領地と妻を得て暮らすようになります。家康の命を受けて彼が建造した西洋式帆船は家康の武威を高めましたが、当時の日本の船大工たちに西洋式の造船技術を伝授したという点において技術史的にも大きな意味を持っています。
しかし、「航海することが必要だ。生きることは必要ではない」という思いを胸に秘めて大海を渡ってきた航海者アダムスにとって、日本での生活が真に幸福なものであったのかどうかはわかりません。晩年になり望郷の念にかられたアダムスですが、その資金を稼ぐための東京(現在のベトナム北部)への航海でマラリアに罹り、平戸にてその生涯を終えます。享年56歳でした。
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