拓海広志「『大阪ハムレット』に寄せて」

 第三者からはチッポケに見えても、当事者にとっては人生を左右しうる深刻な問題。ごく普通の日常に潜むそんな問題を軸に、森下裕美さんは様々な物語を紡いでいきます。舞台となるのは天下茶屋、岸和田、難波、天保山といった大阪の人情あふれる町々。。。


 登場人物の多くはこうした問題を解決するわけではないのですが、それを抱えたままでも生きていける勇気と人生のコツを、様々な人との関わり合いを通して得ていきます。そんなささやかなドラマが軽妙なタッチで描かれていて、読み進むにつれて元気が湧いてきます。


 僕が個人的に好きなのは、女の子になりたいという願望を持つ男の子が学校祭の劇でシンデレラ役に挑戦する「乙女の祈り」と、その子が鳥羽の離島に住む海女のおばあさんのところに遊びに行く「おんなの島」。彼をそのまま受け入れてあげる周囲の優しさが素敵です。


 また、中学生の男の子がひょんなことから23歳の女性(高校教師)と付き合うことになる「恋愛」も、切なさと清々しさが同居した魅力的な作品ですし、表題作である「大阪ハムレット」に登場するツッパリ君のキャラも最高です。


 第2巻所収の「大阪踊り」は、自分の好きなことに向かって生きていこうとする女性が直面する問題と、彼女がそこから脱皮していく過程を描いた作品で、読み応えがあります。「カトレアモーニング」も、往年の漫画雑誌『ガロ』を思い出すようなタッチの青春ドラマで、いいですね!


 会話が全て大阪弁なのも関西人にとっては嬉しいところで、僕は最近会う人には必ず「『大阪ハムレット』、読んだか? むっちゃええで! まだ読んどらへんのやったら、はよ読みや」とふれまわっているのです(笑)。


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