拓海広志「妖怪考」

 一人旅が好きで、昔から暇さえあればリュックに旅道具と寝袋を詰め込んで出かける。汽車に乗って気の向いた駅で降りて街をぶらついたり、カヤックで川下りをして夕方になると河原にテントを張ったりといった具合だ。


 夜、人気のないところで風の音や虫の声をBGMに、ランタンやトーチの灯りで本を読んでいると、一瞬ゾクッという胸騒ぎが起こり、背筋が凍りつく気がすることがある。この、時間にして僅か数秒の金縛り状態が解けたとき、僕は自分が今、物の怪に包まれていたことを悟るのである。


 僕の経験から言うと、こういう物の怪を感じるのは、人間界と自然界の狭間のような場所だ。あまりに人間臭いところは駄目だし、あまりに人間界から離れた大自然の下では神々しさは感じても、物の怪はいない。


 しかし、擬似的な自然とも言える大都市の、何の変哲もない一角に佇んでいる時に、ふとそういう感じに陥ることはある。そこもまた此界と他界の狭間であり、たぶん何かが潜んでいる場所なのだろう。


 以前僕がインドネシアに住んでいた頃、妖怪はそこら中にいたし、僕の家にもやって来た。インドネシアの人たちの多くは霊的なものの存在を当たり前のように信じているから、きっと妖怪たちも姿を現しやすいのだろうな。


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