拓海広志「『るにんせん』に寄せて」

 故團伊玖磨氏が八丈島と縁深く、氏のアトリエがあった樫立で毎年「團伊玖磨先生を偲ぶ会」が催されていることは知っていましたが、僕はこの小説を読んで團紀彦氏の八丈島への思いとその歴史や文化への造詣の深さについても知りました。


 『るにんせん』は、天保9年(1838年)7月に起きた佐原喜三郎による八丈島抜け舟事件を題材とした作品です。團氏はその背後に当時八丈島に流されていた近藤富蔵(近藤重蔵の息子)が隠し持っていた伊能図(伊能忠敬が測量によって制作した地図)の存在があったのではないかと推測し、それに基づいてこの事件の再解釈をしています。


 これは非常に興味深い仮説で、そう考えると喜三郎たちが八丈島から黒潮を渡って本土までたどり着けたことや、喜三郎が江戸で再逮捕されたにもかかわらず江戸拾里四方追放で放免され出獄したこと、また彼が遺した『朝日逆島記』に遠州灘から鹿島灘までの太平洋岸を含む伊豆七島の見取り図が付してあったことなど、幾つかの謎が解けてきます。


 当時の江戸と八丈島の風俗や文化もよく描かれていますし、八丈島の人と海をめぐる物語としても大変読み応えのある作品です。ちなみに、「るにんせん」とは「流人船」のことです。


(無断での転載・引用はご遠慮ください)


Link to AMAZON『るにんせん』

るにんせん

るにんせん

Link to AMAZON『るにん』
るにん [DVD]

るにん [DVD]