拓海広志「『永遠の語らい』に寄せて」
マノエル・ド・オリヴェイラ監督の『永遠の語らい』は、なんとも苦い後味の残る映画です。
ポルト、マルセイユ、ポンペイ、アテネ、イスタンブール、そしてカイロからスエズ運河を経てアデンへ・・・。歴史学教授の母と幼い娘による地中海の船旅は淡々と続き、それを描いた映像はとても美しく穏やかです。
非日常的なはずの旅の情景がごく自然なものとして心に収まっていくさまはとても心地がよいのですが、古代都市遺跡やピラミッド、スエズ運河などをめぐる娘の好奇心に応える母の回答は教養人ゆえに模範的過ぎて、少々退屈な感じすらします。でも、この退屈さは、理不尽で衝撃的な映画の結末への長い伏線のようです。
船長がホストを務める夕食のテーブルでは、英語、フランス語、ギリシャ語、イタリア語、ポルトガル語が入り混じった会話が交わされます。その様子は活き活きとして楽しく、様々な対立の歴史があってもヨーロッパ文明は同根だということを示唆しているのですが、これもまた同様に結末への伏線なのでしょう。
映画が急展開するのは、娘がアデンで船長から可愛い人形をプレゼントされてからです。出港後にテロリストが船に爆弾を仕掛けたという情報が入り、乗客に救命艇での脱出を指示する船長。しかし、部屋に人形を置き忘れたことに気づいた娘はそれを取りに戻り、その結果母娘は救命艇に乗りそびれてしまうのです。
ヨーロッパが「過去のもの」として昇華してきたはずの歴史が、中東では現代の遠因になっているという現実。この映画の絶望的で救いのない結末は、ヨーロッパの中だけで歴史を物語ることの限界を暗示しているように思えます。
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