拓海広志「梅雨空の週末」

 僕は週末の大半を海で過ごすか、そうでなければ西宮の里山をジョギングで散策したり、仲間たちと一緒に楽器をかきならしたりして過ごしている。しかし、大好きな芝居や映画があれば、たまには街に繰り出すこともある。もちろん、そんな中でも仕事だけは「24時間x365日」の常時臨戦態勢で臨んでいるが、人生に「On/Off」をつけるというような野暮は言いたくないものだ。人生は常に「On」なのである(笑)。


 ある梅雨空の週末を、僕は久しぶりに街で過ごした。土曜は朝から雨が降っていたので、僕はウインドブレーカーを羽織ってジョギングをし、それからこのブログでも紹介させていただいた映画『幸せの太鼓を響かせて〜INCLUSION〜』を観るために新宿に出かけた。これは期待していた以上に素晴らしい内容の映画で、「瑞宝太鼓」のメンバーが太鼓を通して自己表現し、仲間や家族、そして聴衆と対話しながら絆を結んでいく姿に僕は深い感銘を受けた。


 それから、荻窪の観客が40人くらいしか入れない小さな劇場で、たこ足配線企画という劇団の『シアター109』という芝居を観た。役者の体温が感じられるくらい狭い空間にいて、何だか久しぶりに小劇場の原点に回帰したような気がしたが、酒井菜月さんの脚本もよく書けていて、若い役者たちの演技も今後の可能性を感じさせる清々しいものだったので、とても良かったと思う。この劇団の今後が楽しみだ。


 その後、吉祥寺へ出て、「風呂ロック」で知られる弁天湯で一風呂浴びた。僕は風呂屋が大好きで、これまでも各地で銭湯を訪ねてきたが、弁天湯は昭和の風情漂う良い風呂屋だった。それにしても、最近は香川県直島の「I♥湯」のようなアートをテーマにした銭湯が作られたり、あるいは銭湯でバンド演奏や落語の公演、カラオケ大会や健康体操会が催されたりと、風呂屋もなかなか騒々しくなっているようだ。


 それから下北沢へ移動して、小劇場の殿堂「ザ・スズナリ」へ赴く。劇場横の焼鳥屋で軽く一杯やった後、燐光群の芝居『推進派』を観た。坂手洋二さんと燐光群の素晴らしいところは、いつまでも初心、つまり原点にあった「志」を忘れていないことで、彼らの芝居を観た後はいつも背筋がシャンとする。未だに「ザ・スズナリ」のようにレトロな小劇場を使っていることも凄いことで、僕はこの劇場と周囲の飲み屋の雰囲気が大好きだ。


 土曜はそんな風に映画と芝居をハシゴしたのだが、翌日は新宿のスタジオを借りて終日僕らのバンド「The Hyper Bad Boys」の練習だった。仲間たちと楽器をかき鳴らしながら、曲のアレンジをしたり、演奏を合わせていると、一日が経つのは本当に早い。あっという間に夜が来て、打ち上げのビール。そして、涼しい夜風に吹かれながら、「たまには街で過ごす週末も悪くはないなぁ」と思った・・・。もちろん、これは素晴らしい映画と芝居、そして素敵な音楽と仲間たちのおかげである。


(無断での転載・引用はご遠慮ください)


花も花なれ、人も人なれ ――ボランティアの私

花も花なれ、人も人なれ ――ボランティアの私

直島 瀬戸内アートの楽園 (とんぼの本)

直島 瀬戸内アートの楽園 (とんぼの本)

美術手帖6月号増刊 瀬戸内国際芸術祭2010公式ガイドブック

美術手帖6月号増刊 瀬戸内国際芸術祭2010公式ガイドブック

直島銭湯 アイ・ラヴ・湯

直島銭湯 アイ・ラヴ・湯

坂手洋二 (1) 屋根裏/みみず (ハヤカワ演劇文庫 7)

坂手洋二 (1) 屋根裏/みみず (ハヤカワ演劇文庫 7)

私たちはこうして二十世紀を越えた

私たちはこうして二十世紀を越えた