拓海広志「『ダイバー漂流』に寄せて」

 僕は長時間をかけて海で泳いだり、素潜りして遊ぶのが大好きだ。長い時間泳いでいると、徐々に身体が海水に溶け出していき、どこまでが自分の身体で、どこからが海なのかハッキリしないような不思議な感覚になるが、それがまた心地よいのだ。しかし、本書を読んだ後は「さすがにここまでの遠泳はしたくないな」とつくづく思った。


 このノンフィクション物語の主人公は新島でのダイビング中に黒潮に流され、身一つで銚子沖まで230キロに及ぶ漂流をする。普通ならば死んでもおかしくない状況だが、主人公の楽天的な性格(何と漂流中に加山雄三さんの『光進丸』を歌っていたというから凄い!)、彼に生きる勇気を与えてくれたクジラや様々な海洋生物との出会い、そして幾つかの幸運な出来事に恵まれて、彼はマグロ漁船に救われる。


 主人公が助かった背景には幾つもの小さな奇跡があったわけだが、それを呼び込んだのは彼の天性の明るさだったのかも知れない。あるいは、この遭難から救出に至るまでの一連の出来語事は、気まぐれな海の女神のいたずらだったのだろうか? いずれにせよ、海と関わる全ての人に貴重な教訓を与えてくれる一冊だ。


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