拓海広志「『老人と海』に寄せて」

 マイアミから車を飛ばし、キーウェストを訪ねたことがあります。かつてヘミングウェイが愛した島はすっかり観光地と化し、彼が毎日のように通ったというSloppy Joe's Barも大勢の観光客で深夜まで騒々しかったですが、フロリダ海峡の水の青さだけはたぶん当時のままなのでしょう。


 『老人と海』のように完成度が高くて贅肉のない短編小説を映像化するというのは容易なことではないと思いますが、ジョン・スタージェスはそれに挑みました。原作への思い入れがあり過ぎるとなかなか素直に映画を観られないことがあるのですが、僕はこの映画に関してはそういうことはなかったです。


 サンチャゴ役のスペンサー・トレイシーはちょっと格好良すぎたきらいもありますが、ヘミングウェイが描いたストイックな海の男の静かなプライドを、その淡々とした演技の中で上手に表現しています。メキシコ湾の漁村の風情も美しく描かれており、独りでお酒を飲みながら観たい映画です。


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