拓海広志「『マスター&コマンダー』に寄せて」

 サンディエゴの港で、この映画のロケ用に作られた船「サプライズ」を見学したことがあります。船内に入ってみると何もかもが張りぼてだったのですが、それをうまく使ってこれだけリアルで迫力のある映像が作れるのだから大したものです。


 この映画で描かれているのは徹頭徹尾イギリス的な海の男の世界で、艦長のジャック・オーブリー(ラッセル・クロウ)はそれを誰よりも体現する存在です。


 一方、彼の親友でもある軍医のスティーヴン・マチュリン(ポール・ベタ二ー)は後年のチャールズ・ダーウィンを連想させる、別タイプの典型的イギリス人だと言えるでしょう。


 海や船のことが好きな人にとっては、稀に見るほど面白い映画で、退屈する箇所がありません。映画の中で飛び交う海事用語は聞き逃せませんし、船員たちによるカタフリの雰囲気も楽しいです。


 また、普通なら鼻につくかも知れないジャックとスティーブンによるバイオリンとチェロの演奏シーンも、実に粋な雰囲気に仕上がっていて素晴らしいです。


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