拓海広志「『海の上のピアニスト』に寄せて」

 船を舞台とする映画の中でも僕が特に偏愛する作品です。アレッサンドロ・バリッコの原作(一人芝居の戯曲)も面白かったですが、映画はそれに基づきつつも、全く別のテイストに仕上がっています。


 19世紀から20世紀にかけては多くの客船がヨーロッパとアメリカの間を結び、人々と文化を運びましたが、西暦1900年に「バージニア」という船の上で拾われた赤ん坊はナインティーン・ハンドレッド(1900)と名付けられ、そこから一歩も外に出ることのないまま育ちます。


 彼にとっての世界とは彼が生まれ育った船であり、彼が他者との間で感情を通わすことが出来るのは、天才的な技量によるピアノ演奏を通してのみでした。


 彼がその生涯において巡り会った、たった一人の友人であるトランペッター(物語の語り部)との友情と、一度きりの片思いの恋を除いては、彼は他者との関係を築くことができず、やがて老朽化した「バージニア」が爆破されることになっても、そこから外に出ようとはしません。


 人と世界の関係を考える上で強烈なメタファーを孕んだ作品なのですが、これほど叙情的に美しく描かれてしまともう何も言えず、ただ映像と音楽の美に酔いしれるのみです・・・。


(無断での転載・引用はご遠慮ください)


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「海の上のピアニスト」オリジナル・サウンドトラック

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