拓海広志『「イントゥルーダー」に寄せて』

 高嶋哲夫さんの小説と教育・学校問題についての論稿は一通り読んでいるのですが、「どれか一作を」ということになると、僕はサントリーミステリー大賞・読者賞の受賞作『イントゥルーダー』を挙げます。


 かつて原子力の研究者であった高嶋さんには、科学や技術に携わる者への深い愛情と、人間が科学や技術を過信してはならないという強い信念の両方があるようで、物語の中でもその二つの思いが表現されています。


 また、高嶋さんの書く小説の主人公の多くは高い職業意識に燃えた男性であることが多いのですが、それ故にいったんは家庭に揺らぎが生じてしまうものの、やがてお互いを理解し、信頼し合うことによって家族が再生されるという展開が多いです。


 『イントゥルーダー』にもこうした高嶋さんのこだわりが随所に出てくるのですが、どんでん返しの続くスリリングなストーリー展開の中で最初から最後まで一気に読者を引っ張っていくエンターテーメント作家としての力量も相当なもので、その後の高嶋さんのご活躍を僕に確信させた素晴らしい作品でした。


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