拓海広志「『A Friend in Need』に寄せて」
サマセット・モームは僕の好きな作家の一人ですが、モームのショート・ストーリーを集めたペンギンのペーパーバック『Collected Short Stories』は午後のカフェで読むにはもってこいの本です。
この中に神戸の塩屋〜垂水界隈を舞台にした『A Friend in Need』(困った時の友人)という作品があります。明治時代に神戸で活躍した英国商人たちを題材にした話で、酒とギャンブルで身を持ち崩してしまった男がビジネスをやり直したいからと友人のところに金の無心にやってきます。
友人は塩屋の浜から沖に浮かぶ灯標(平磯灯標のこと)まで泳いで行き、浜に戻ってきたら金を貸すことを約束します。男は灯標までの距離がさほどではないことに安心して泳ぎ出すのですが、明石海峡の強潮に流されて溺れ死んでしまうという話です。
僕が子供の頃、舞子〜垂水〜塩屋に至る海は毎日の遊び場でした。早い潮の流れる海峡は決して安全ではありませんが、僕らは板切れや丸太などを抱いて沖に出てわざと潮に流されていく、「河童の潮流れ」という遊びをよくやったものです。
モームは神戸と英国の間を行き来する商人たちから、塩屋での彼らの暮らしや、沖を流れる明石海峡を流れる早くて複雑な潮の話を聞きながら、この作品のアイデアを思いついたのかも知れませんね。
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拓海広志『舞子を想う』
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