拓海広志「テロに対するプリンシプル」

 数年前に、僕の当時の上司でもあり、個人的に親しい友人でもあった英国人の男がバリ島を襲った爆弾テロで亡くなりました。その時に抱いた激しい怒りと深い悲しみは今でも僕の胸中にありますが、その後も世界各地で大小様々な規模の理不尽な無差別テロ事件が続いています。最近では、僕が英国にいたときにロンドンのキングスクロス駅付近で発生したテロ事件のことが印象深いです。


 こうした事件が起こる度に、英米あるいは日本政府の姿勢にも問題がある筈だとして、テロに一定の理解を示す人が少なからずメディアに登場し、そうした発言を繰り返すのは、社会思想のプリンシプルを持たない日本ならではのことでしょう。こういう態度はテロリストにつけこまれやすいものであり、実は危険です。


 勿論、テロの背景には様々な事情があるでしょうし、世界には解決すべき問題が山積していることは言うまでもありません。また、個々のテロリストには斟酌すべき動機や事情があるのかも知れません。しかし、そうした理由の如何に関わらず、こうした無差別テロは全て厳格に否定されるべきで、それは現代社会において守るべきプリンシプルの一つとして常に確認しておかねばなりません。


 事件の背景にある様々な歴史・文化的問題、現在の政治・経済的問題については、テロそのものとは完全に切り離した上で論じ、解決を図るべきです。テロに一定の理解を示しながら、こうしたテロをなくすために種々の問題を解決せねばならないと語る人は、そういう語り方がテロを間接的に正当化し、助長しかねないことに気をつける必要があるでしょう。


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