拓海広志「尖閣ビデオについて」
どこかから流出したという尖閣ビデオを見た。経緯を考えると、これは海上保安庁もしくは検察庁から出てきた可能性が高いわけだから、そうだとすれば国家公務員の守秘義務違反に該当し、その情報管理の甘さは非常に由々しき問題ではある。しかし、今回の件について考えると、本来は国内外に堂々と公表するのが当然の資料を極めて不明瞭な理由で闇に葬ろうとした菅−仙石内閣のやり方の方が遥かに異様であり、見方を変えるとこれは「そんな異常な体制下に置かれた国家公務員による内部告発」だったと言えなくもない。
尖閣での事件の後、僕は某中国船社の社長を務める中国人の旧友と会食をした。彼は中国の地方都市で拡がる現共産党政権への不満が、現在中国各地で展開されている学生たちの反日運動の背景にあると嘆く。しかしそんなことよりも、長く日本との付き合いを大切にしてきた彼がとても驚いていたのは、事件後の日本政府の対応には国家としての戦略らしきものが全く見られないということについてだった。残念ながらこれは僕も全く同意見で、この度の日本政府はいささかお粗末だったと言わざるをえない。
しかし、尖閣の問題を考えるにつけ、世界はそろそろ国連海洋法条約のあり方自体を考え直す必要があるのではないかと、僕は感じている。資源領海に関する排他的経済水域(現在は領海基線から200マイル以内)と大陸棚の基準をもっと厳しいものにし、海の資源、特に海底資源は基本的に人類・世界共有のものだとするコモンズ的思想に基づいて国際的に管理する方向に持っていかないと、単なる資源欲から領土問題を引き起こす粗暴で利己主義的な国は今後も出てくるだろう。そうした問題の全てを当事国同士で解決していくのは容易ではない。
さて、今回ビデオを違法流出させた人物が見つかるかどうかはわからないが、海上保安庁と検察庁への国民の信頼を守るためにもこれは必ず探し出すべきだろう。しかし、既にこれだけ世間に出回っている以上は今さらビデオを非公開としていること自体がナンセンスだ。「政治主導」と言って官僚批判・攻撃をする割には、身内のだらしなさには相当甘く、問題があっても「臭い物には蓋」という振る舞いが目立つ現政権ではあるが、そろそろもっと毅然とした態度で内外の問題に対応していただきたいと強く願うものである。
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