拓海広志「神戸とシアトルとイチロー選手」
第2回WBCの最終戦で決勝安打を放ち、侍ジャパンを劇的な勝利に導いたイチロー選手が胃潰瘍でダウンし、マリナーズでの公式戦欠場を余儀なくされることになったそうです。彼ほどの大選手にとっても、国を背負って戦うトーナメント形式の連戦がもたらす精神的、肉体的な負担は小さくなかったようで、「ご苦労様でした。今は焦らずにゆっくり休み、しっかり身体を治してください」と言いたい気がします。
僕はイチロー選手がオリックス・ブルーウェーブに在籍し、神戸でプレイしていた頃からのファンです。特に神戸が震災に見舞われた年は、ユニフォームに「がんばろうKOBE」のワッペンを付けて快進撃したブルーウェーブと、それを牽引したイチロー選手の活躍に感激しました。あの年、神戸の街と人はイチロー選手とブルーウェーブからたくさんの勇気と元気を得たように思います。
イチロー選手がシアトル・マリナーズに移籍した後も、僕はたまたまシアトルへ行く機会が多かったため、何度かセーフコ・フィールドで彼がプレイする姿を観ました。先頭打者初球ホームラン、ライトから本塁へのレーザービーム返球、奇跡的とも思える俊足の内野安打、そして職人技の盗塁・・・。ベースボールの常識を覆し続けるイチロー選手のプレイはファンを魅了し、いつもセーフコ・フィールドで一番多くの声援を集めていました。
シアトルの街と港はこじんまりとしているけど、なかなかお洒落で開放的。神戸との共通点も多いため、僕は好きです。また、カリフォルニアあたりとは違って魚介類が美味しいため、ぶらりと寿司屋に立ち寄る楽しさもあります。そんな寿司屋のカウンターで飛び交う話題の多くは、やっぱりマリナーズの試合のこと。こういう雰囲気も、いつも阪神タイガースの話で盛り上がる阪神間の寿司屋や串揚屋と似ていますね(笑)。
ところで、イチロー選手と言えば道具に対するこだわりの強さでも知られていますが、特に靴についてはアシックス一筋です。イチロー選手のところにはナイキからもかなり高額なスポンサー契約の話があるそうですが、彼は自分が気に入って信じたアシックスの靴にこだわっているため、それを断り続けているといいます。アシックスで勤務する僕の友人によると、イチロー選手は毎年オフになると自主トレのために神戸を訪れ、その際にアシックスの神戸本社を訪問して靴職人と新しい靴について何時間も討議をするのだそうです。イチロー選手のこういうところも、僕は大好きです。
シアトルの寿司屋でたまたま隣に座ったアメリカ人医師が、「僕の息子は野球が大好きなんだけど、身体が小さいんだ。でも、イチローのお陰で『自分でも頑張れば出来る』と思ってるみたい。そういうのって凄いよね」と話してくれました。「うん、そういうのって確かに凄い・・・」。だから、イチロー選手がしっかり体調を整えて、また元気なプレイを見せてくれることを心から願っています。
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