拓海広志「『生命を捉えなおす』に寄せて」

 新年明けましておめでとうございます。
 昨年はこのブログを読んでいただき、ありがとうございました。
 2007年が皆さんにとって良い年となるよう、心からお祈りしています。
 今年もお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。


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 先ほど僕は近所の甲山という山の中腹にある神呪寺(かんのうじ)へ参拝し、除夜の鐘を聞きながら新年を迎えました。寺の境内からは大阪平野の夜景が見渡せるのですが、USJから上がる花火がきれいでした。


 ところで、神呪寺の「神呪」は本来真言を意味する「じんしゅ」と読むべきもので、この寺は言うまでもなく真言宗に属します。寺の周囲には「甲山八十八ヶ所」と呼ばれる写し巡礼路もあり、なかなか趣のある散歩道となっています。


 真言密教曼荼羅は宇宙の理を示しますが、それは生命の理とも、また社会の理ともつながっています。今回はそんなつながりを想起させてくれる生命科学の本を一冊紹介させていただきます。。。


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 『生命を捉えなおす』の著者・清水博氏によると、生物の世界においては単独で活動するよりも、幾つかの異なるものが複合的なサイクルを作る方が、お互いがより高次な系に組み込まれていくことによって、さらに安定した共存的システムへと進化していくのだそうです。


 清水氏は、自然界においては<個>と<全体>は互いにループで結ばれた階層構造をなしており、両者は構造的にも機能的にも分離することができないという考え方を土台にしながら、その階層構造の中に人間の社会や組織をも組み込んだ自然観を提示しようとしており、それをバイオホロニックスと呼んでいます。


 バイオホロニックスは生物の世界において<個>と<全体>がどのように調和しているのかを説明するものですが、同氏は要素還元論的な発想から<個>を捉えることはせず、「ホロン」=「関係子」という概念を使って「生きている自然のシステム」を解き明かそうとします。


 関係子とは従属子や独立子ではなく、自由な<個>でありながら、その自由選択性ゆえにシステム全体における秩序形成に自主的に参画し、<全体>を形作るものであり、そういう仕組みこそが生命システムであると清水氏は述べています。


 ※関連記事
 拓海広志『信天翁ノート(2)』


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