拓海広志「東北地方を襲った地震と津波」

 3月11日。東北地方太平洋沖地震東日本大震災)が起こったときに、僕は東京の新木場にいた。今回の震災で東京はほとんど直接的な被害を受けていないが、この界隈は埋立地のせいか多少の被害を受けた。道路のアスファルトに亀裂が入って泥水が噴出し、その中に車が飲み込まれて沈んでいく光景を目にして、僕はかつて阪神淡路大震災の際に神戸ポートアイランドの港が液状化によって壊滅的な打撃を受けたことを思い出した。


 その日から10日間、ライフラインを担う物流の仕事に携わる人の多くがそうであったように、僕らもまた24時間体制で仕事に没頭することとなった。そんな中で、世界各国から日本政府宛に送られてくる救援物資を、東北の被災地やその周辺に設けられている避難所に運ぶという仕事にも取り組み、僕もこの週末にはトラックに同乗して成田空港から宇都宮の赤十字まで毛布の搬送を行った。その毛布はこれから栃木県内の各避難所に配られるのだという。


 多くの尊い命が奪われた阪神淡路大震災の年に息子が生まれたとき、僕は彼に洸(ひかる)という名前を付けた。それは、太古の海に射し込む太陽の光をイメージしたもので、僕はそこから生命の誕生を連想したのだ。あれから16年経って起こった今回の地震は、巨大な津波を発生させ、阪神淡路大震災を上回る大きな災害をもたらした。東北の被災地で奮闘する友人・知人らの話を聞くにつれ、その被害の凄まじさに身がすくむ気がする。


 今回の地震津波災害には、福島第一原発メルトダウンするという新たな問題が加わり、混乱を増幅しているようだ。しかし、原発では技術者たちと自衛隊東京消防庁ハイパーレスキュー隊などが正に命がけで闘っているわけで、今の僕らは彼らを信じ、彼らに全てを託して見守るしかないだろう。それよりも、僕らが力を尽くすべきなのは、被災者たちの生活や被災地の経済を復興させるための様々な支援である。


 首都圏や中京圏、関西圏のような被災地とは言えない場所において、食品・食糧や日用品、燃料などの買い占め、買い溜めをする人がいるという報道があったが、これは恥ずべき行動だ。人として、困っている人や地域のことを優先して考えるのは当然のことであり、僕らは被災地に物資が送られるのを妨げることをしてはいけない。とは言え、行き過ぎた節制も実は考えものなので、適当なバランス感覚を持った振る舞いをしたいものだ。


 今回大きな被害を受けた岩手、宮城、福島の沿岸部は、僕が何度も足を運んだことのある思い出深い地域であり、少なからぬ数の友人や知人もいる。あの美しい海山と町、そして海山と調和した人々の暮らしを取り戻すために、自分に出来る支援活動をしていきたいと思う。


 ※参考記事
 拓海広志「震災」
 拓海広志「神戸再生への序章」
 拓海広志「日本丸航海記(2)」


(無断での転載・引用はご遠慮ください)


[rakuten:datenashopping:10001835:detail]

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

水木しげるの遠野物語 (ビッグコミックススペシャル)

水木しげるの遠野物語 (ビッグコミックススペシャル)

月山・鳥海山 (文春文庫 も 2-1)

月山・鳥海山 (文春文庫 も 2-1)

津軽 (新潮文庫)

津軽 (新潮文庫)

吉里吉里人 (1981年)

吉里吉里人 (1981年)

おくりびと [DVD]

おくりびと [DVD]

「おくりびと」オリジナルサウンドトラック

「おくりびと」オリジナルサウンドトラック